「今の会社を辞めたい気もする。でも、本当に転職したほうがいいのか分からない」
こう思ったまま、半年、一年と過ぎていく人は多いです。
慎重な人ほどそうなります。転職回数がすでに多い。前職の在籍が短い。次は失敗できない。そう考えるほど、動く前に答えを出そうとして、動けなくなります。
でも、ここでいきなり、
「転職するか、今の会社に残るか」
を決める必要はありません。
私はこれまで5回転職してきました。そして現在は、採用人事として転職する人を見る側にいます。
両方を経験して言えることは一つです。
転職活動を始めることと、実際に転職することは別です。
求人を見る。職務経歴書を作る。何社か応募する。面接を受ける。
そして、本当に行きたい会社から内定が出たところで、初めて考える。
判断材料は、動かないと集まりません。
この記事では、活動の各段階で何が見えてくるのか、そして面接で気をつけるべき一点を書きます。
求人を見る|自分の「当たり前」が基準だと気づく
ずっと同じ会社にいると、その会社の働き方が自分の中の基準になります。
「この業界なら、給与はこのくらいだろう」
「管理職にならないと裁量は持てないだろう」
「子育てしながら働くなら、この働き方しかないだろう」
求人を見ると、この前提が動きます。
同じ経験で応募できる別の職種がある。年間休日が20日多い会社がある。管理職でなくても任される範囲が広い仕事がある。
もちろん、逆に振れることもあります。
「今の会社の給与、意外と悪くなかった」
「休日はかなり多いほうだった」
「転職すると通勤が40分伸びる」
どちらに転んでも収穫です。外を見るからこそ、今いる場所を客観的に測れます。
ここまでは、登録して眺めるだけでもできます。誰にも知られません。
面接を受ける|自分の経験が、外でどう評価されるか分かる
求人を読むだけでも発見はありますが、面接まで進むと解像度が変わります。
「その経験なら、うちではこういう役割もお願いしたいです」
「今この課題があって、そこを見てもらいたいと思っています」
こう言われて初めて、自分の経験が別の場所ではどう値付けされるのかが見えます。
反対に、思ったより評価されないこともあります。これも同じくらい重要な情報です。
面接をしていて感じるのは、自分の市場価値を実際より低く見積もっている人が、かなり多いということです。特に、社内で評価されていない人ほどそうなります。
会社が求める能力と、市場が求める能力は、必ずしも同じではありません。社内評価が低いから市場でも低い、とは限らないのです。
そして、こういう判断になることもあります。
「今すぐ動くより、あと1年この経験を積んでからのほうがいい」
転職活動をしたからこそ、転職しない理由が見つかる。 これは十分に成果です。
ただし、面接で「迷っています」とは言わない
ここは分けて考えてください。
心の中で決めていなくても構いません。ただし、面接でそれを口に出すのは別の話です。
「今の会社と比較したくて受けました」
「まだ転職するか決めていません」
これを正直に伝えると、まず通りません。
採用する側は、その人を採ることを前提に時間を使っています。現場の責任者の予定を押さえ、条件を検討し、社内で説明します。そこで「転職意思がまだない」と分かれば、選考を進める理由がなくなります。
不誠実だという話ではありません。面接は、比較検討の場ではなく、その会社で働く前提で話す場だからです。
では、どうするか。
その会社について、自分が本当に良いと思った点を話せばいいです。
「この仕事内容なら、これまでの経験が活かせると思いました」
「この課題に取り組めるのは魅力的だと感じました」
嘘をつく必要はありません。応募したということは、何か引っかかるものがあったはずです。そこを言葉にする。
決めるのは、内定が出てからで構いません。選考中は、その会社に入る前提で全力で話す。 これは矛盾ではなく、順番の問題です。
内定が出る|ここで初めて、条件で比べられる
求人を見ている段階では「良さそうだな」までしか分かりません。
内定が出ると、話が具体的になります。給与、仕事内容、勤務地、休日、誰と働くか、何を期待されているか。
ここで初めて、今の会社と実際の条件で並べられます。
例えば、こういう形になったとします。
- 今の会社に残る:年収550万円/年間休日125日/通勤30分/仕事内容は変わらない
- 内定先へ行く:年収610万円/年間休日115日/通勤60分/やりたかった職種に就ける
こうなって初めて、自分が何を取るのかを考えられます。
年収60万円と、休日10日と通勤30分。どちらが自分にとって重いのか。数字が並ぶまでは、これは考えようがありません。
頭の中だけで答えを出そうとしていた間、材料が足りていなかった。 それだけのことです。
「今の会社に残る」も、活動の結果として成立する
比較した結果、残る。
「せっかく活動したのに」と思うかもしれませんが、私は失敗だとは思いません。
何となく居続けるのと、他の選択肢を見たうえで選ぶのとでは、その後の働き方が変わります。
「もっと良い会社があるのではないか」というモヤモヤが消えることもあります。逆に「やっぱり環境を変えたい」とはっきりすることもあります。
どちらであっても、活動する前より判断が具体的になっています。
内定を辞退することについて
ここが気になって動けない人は多いと思います。
選考を受けた会社を断るのは申し訳ない。
採用する側にいる立場から、正直に書きます。
内定辞退は、日常的にあります。
年間を通して普通に発生しますし、辞退されることを前提に採用計画を組んでいます。「辞退する人がいる」ことは織り込み済みです。
もちろん、悔しい気持ちはあります。時間をかけて向き合った相手ですし、一緒に働くところを想像もしています。そこは正直なところです。
ただ、それは選んでもらえなかったこちらの課題であって、辞退した人の落ち度ではありません。条件で負けた、タイミングが合わなかった、他社のほうが魅力的だった。そういうことです。
だから、断ること自体を気にする必要はありません。
そのうえで、2つだけお願いがあります。
1つ目は、決まったら早く伝えることです。
辞退の連絡が早ければ、次の候補者に連絡できます。遅れると、その分だけ他の人の選考も止まります。
2つ目は、必ず自分から連絡することです。
連絡がないまま音信不通になるケースは実際にありますが、これは業界内で記憶に残ります。同じ地域で転職を重ねる場合、めぐりめぐって不利に働くことがあります。
逆に言えば、この2つさえ守れば、辞退はまったく問題ありません。
「とりあえず活動する」と「とりあえず辞める」は違う
一つだけ、はっきり分けてください。
特別な事情がなければ、迷っている段階で先に退職する必要はありません。
辞めれば給与が止まります。活動が長引くと「早く決めないと」という気持ちが出てきます。すると、本来なら選ばなかった会社でも「ここでいいか」と決めてしまいます。
選択肢を増やすために動き始めたのに、先に辞めることで選べる範囲を狭める。これはもったいないです。
在職しながら外を見る。本当に行きたい会社が見つかってから考える。それで十分です。
まず何から始めるか
「動いてみよう」と思ったとして、いきなり応募する必要はありません。
最初にやるべきことは一つです。
職務経歴書を作ってください。
理由は3つあります。
1|応募しなくても価値がある
書き出すと、自分が何をやってきたのかが整理されます。ここで初めて「意外とやってきたな」と気づく人もいれば、「実績として書けるものが少ない」と気づく人もいます。どちらも、今後を考える材料になります。
2|自分の弱点が具体的に見える
書けない欄が、そのまま自分に足りていない経験です。「今の会社であと1年何を積むか」を考えるときの手がかりになります。
3|求人の見え方が変わる
自分の経験が言語化されると、求人票を読んだときに「これは応募できる」「これは厳しい」の判断がつくようになります。
作るのに、まとまった時間は要りません。まず経歴を時系列で並べるだけでも、十分に始まりです。
そこから先、実際に面接まで進むことになったら、練習の方法は別の記事にまとめています。
まとめ
転職活動は、今の会社を辞めるための活動ではありません。
自分にどんな道があるのかを、実際に確かめる作業です。
今の会社に残る。別の会社へ行く。仕事内容を変える。働き方を変える。もう少しペースを落とす。あるいは、あと1年積んでから動く。
どれを選ぶにしても、材料がなければ選べません。
今の会社の中だけを見て悩んでいると、答えは出ません。
決めてから始めなくていい。まず動いて、内定が出たときに、もう一度考える。
その結果、今の会社を選ぶことになっても構いません。
そのときには、迷っていた頃とは違う理由で、そこにいられるはずです。


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